フェルナンド・アロンソとジェンソン・バトンの両スタードライバーにチーム代表のロン・デニスが来日、ステージには新車MP4-30のノーズを模倣したショーカーを展示し、さらには会場となったホンダ青山ビル前にはこれまでのホンダのF1活動の第1期〜第3期のクルマを1日限定で並べ(しかも昨年末の最終戦後のアブダビテストで走ったMP4-29H 1×1も含めて)、日本のF1メディアとファンにとって、これ以上ない"粋な"会見となった今回のホンダF1記者会見。会見の内容はともかく、まずはこの豪勢なおもてなしに今回のホンダのF1活動への強い決意と意気込みが感じられたが、同時にマクラーレン側の冷静さも垣間見えた。
F1ファンならご存じのように、現在の開発状況について、ホンダのパワーユニットには不安の声が上がっている。MP4-30のシェイクダウンとなった2月頭のへレス合同テストではトラブル続出。昨年王者のメルセデスAMGが4日間で516周を走行したのに対し、マクラーレン・ホンダは熱害をはじめとしたさまざまなトラブルにより、初日6周、2日目6周、3日目32周、4日目35周の計79周に終わった。チャンピオンチームの15%しか走行できずに最初のテストを終えることになったわけだが、それでも、今回の会見でホンダF1プロジェクト総責任者の新井康久氏はその不安を否定する。
「へレスでトップチームと同じようなラップ数を重ねながら、という期待をされていると思うのですけど、そう簡単ではない。パッケージを攻めたことによる熱の問題、いろいろな問題が出ました。出力よりもすべてのシステムが全部正常に動いていて、データ設定がきちんと思いどおりにいくのか確認をしていましたし、我々はラップラップタイム(4日間の総合ではトップタイムから約7秒差)に対しては、こんなものだろうと理解していましたので、何も心配していない。数字だけ見ると相当な差があるので大丈夫かと思われるでしょうけど、ステップはちゃんと通過できたと思っています」
新井氏はへレステスト以前から、開幕戦に向けて「前の方のグリッドに並んですごいじゃないかと言われる。(レース後は)ひと言で終わりたい。『やりました』と」、というように自信のあるコメントを繰り返してきた。実際、ホンダのパワーユニットはサイズゼロとも言われるほどコンパクトで、MP4-30の絞り込まれたリヤエンドを見れば空力的恩恵が多そうなマシンであることは理解できる。
「エンジンとシャシーのパッケージで言えばポテンシャルは高いと思いますし、(パワーユニットは)これ以上、小さくしろと言われても無理なんじゃないかと思うくらいに攻めています」と新井氏が話すように、出力と信頼性はともかく、ホンダのパワーユニットのコンパクトさはライバルに大きなアドバンテージになり得る可能性がある。ここまで聞けば、マクラーレン・ホンダの開幕戦での期待が高まっていくばかりだが、今回の会見に出席したマクラーレン陣営のキーパーソンたちのコメントは、あまりにクールだった。
具体的なリザルトへの期待を聞かれたロン・デニスは「いずれは独占的なポジションを築けるだろうし、成功するのは間違いない。時間の問題だ」とは言うものの、「昨年の時点で山の頂上にいたわけではない。そこまでは時間が掛かるし、まだ登山の準備段階にいる。過去の栄光には思いは馳せない」と、極めて現実的。
メディアから「いつ頃、勝てそうか?」との追い打ち質問にも、「どんなタイミングで勝ったとしても、『時間が掛かり過ぎだ』と言われるだろう(笑)」とはぐらかした。
チャンピオン経験者のドライバーふたりも、シェイクダウンを終えた現段階で過度の期待は語らない。バトンはへレステストの感想でポジティブなコメントを残したが、「ポジティブだって言うのは、(パワーユニットではなく)人(スタッフ)がポジティブだということ」と釘を刺し、すぐに勝てるか? との問いにも「僕らのチームが最初から勝てると思うのは、他のチームに対してリスペクトをしていないことになる。F1は非常に競争が激しいスポーツで、ベストな自動車メーカーを相手に戦うわけだから、そんなに簡単に勝てるものじゃない。だからもう少し時間をかけて改良を進めてく必要がある」と過剰な期待を制した。
アロンソにしても「信頼性のポテンシャルを確かめるところまで行ってなくて、今はまだ開発の確認段階。他のチームは1年先にそれをやってきて、彼らはレースをしながら問題を解決してきたけど、今は僕らがそれを行っていることになる。今シーズンは多少細かい問題が出てくるだろうし、それを解決しながら進むことになる」と、茨の道を覚悟している。百戦錬磨のドライバーふたりに、名門チームを率いるトップ、この3人に共通していることは「F1はそんなに甘い世界ではない」という認識だ。
今回の会見でホンダ側の意気込みは十分に感じられた。だが、それと同時にマクラーレンとのニュアンスの違いも感じられた。お互い「勝利」、「チャンピオン」という目的は同じでも、少なくてもマクラーレンは、そこに至るまで長期的なプランで考えていることは明らかだ。マクラーレンのようないわゆる生粋のレース屋と違って、ホンダとしては当然、大企業としてのつらさもある。日本を代表する自動車メーカーのひとつとして初めから弱気なことは言えないだろうし、ファンだけでなく、株主を納得させるためにも開幕戦から勝利を目指すと言い続けなければならないのは理解できる。
もちろん、開幕戦から誰もが納得のいく結果を残すことができれば、この不安はただの杞憂になるが……。ホンダとマクラーレン、この両者の今回感じた温度差は単に文化の違いと言える類いのものなのか。それとも、これがこの先を見据えた、生き馬の目を抜くF1界に生きる者のしたたかさなのかーー。
posted by Ayrton at 21:48|
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