朝9時の時点でMP4-30は、まだジャッキアップされて作業台に乗った状態だった。ホンダ側スタッフが前日のオイル漏れへの対策を講じ終えたのが午前10時30分、そこからマクラーレン側のセンサーチェックが必要となり、午前のセッション終了直前に2周のインストレーションチェックを完了するのが、やっとだった。
最終日には長めのランでレースを想定した確認テストを行いたい意向だったが、これによりテストプログラムは変更を余儀なくされ、3〜5周のランを繰り返してデータ収集に専念することとなった。午後は8回のコースインを行い、開幕までの1週間にファクトリーで最後の追い込みをするためのデータ収集を行った。
新井康久F1総責任者は、100kgという燃料制限の下で行われる決勝レースで必要とされる様々なモード、つまりパワーベストや燃費ベスト、回生の様々な使い方などのマップセッティングが試しきれなかったと認める。
「長いレースの中では様々な状況が想定されますから、それぞれに合わせて、どのようなセッティングが必要かということをテストしておきたかったんですが、走行時間が限られてしまったので、その他のデータ収集を優先しなければなりませんでした。しかし、データはたくさん収集できていますから、マクラーレン側とも相談しながら用意していきたい」
先週のMGU-Kに続いて今週はハイドロ系リーク、オイルリークに見舞われたホンダのパワーユニットには信頼性の不安が渦巻いている。だが、これはテストで様々な試験的パーツを搭載し、実走テストに充てたためでもある。つまり実戦仕様のパワーユニットが次々とトラブルを抱えているのではなく、最後の熟成作業を行うためのデータ取りをしたというわけだ。
新井F1総責任者の「信頼性は確立できると自信を持っている」というコメントの理由は、そこにある。
「今週のテストで走らせたパワーユニットが、そのまま開幕戦にいくわけではありません。今週は様々なパーツを試して、うまくいったものもあれば、そうでないものもありました。開幕戦に向けた仕様を作り上げるうえで必要なデータを取っていたんです。そのデータを元に、これから日本に帰って開幕戦までに実戦仕様のパワーユニットを作り上げたいと思います。すでにピースはそろっていて、時間との闘いになりますが、信頼性の確立は可能だと思っています。信頼性が確保できないまま、開幕を迎えるつもりはありません」
パワーユニットの熟成不足ばかりが不安視されるマクラーレン・ホンダだが、まだまだ車体側のセットアップも途上の段階にある。そういう意味では車体側もパワーユニット側もパフォーマンスの伸びしろはある。だからこそ、チーム内にはポジティブな雰囲気が漂っているのだろう。その伸びしろを開幕までに引き出せるのか、それとも数戦かかってしまうのか、それは時間との闘いだ。
ジェンソン・バトンは言う。
「ホンダと一緒に仕事をして、印象的なことがふたつある。ひとつはドライバビリティの熟成度合いで、もうひとつは彼らの意志の強さだ。ここまでのテストはマクラーレン・ホンダの全員にとってものすごくタフなものだったけど、その間も彼らはパワーユニットを改善して開幕戦に間に合わせるために全開で努力し続けてきた。そしてシーズンを通して、さらに向上していくだろう。彼らは絶対にあきらめないからね。だから僕はホンダとのパートナーシップを愛しているんだ」
その言葉には多少のリップサービスも含まれているだろうが、しかしそれはバトンからホンダに対するエールだと感じられた。シーズン開幕までに残された時間は決して多くはないが、そのエールに応え、そしてファンの期待に応えるべく、マクラーレン・ホンダは全力で戦い続けるだろう。